『空騒ぎ』…ベネディックはすごく個性的だよなあ

空騒ぎ

シェイクスピアの作品には、一つの戯曲中にいくつもの筋が含まれていて、それらが巧く結びついているものが多い。

『空騒ぎ』もその例外でなく、(1)ヒーロー&クローディオー、(2)ベアトリス&ベネディック、(3)ドグベリー&ヴァージズの三つの筋で構成されている。

(1)は悲劇的な要素を多く含んだ展開。(2)は『じゃじゃ馬ならし』のカタリーナとペトルーキオーを思い出させる喜劇的な話。(3)は副筋といっていい。ヴァージズに親しみが沸く。

解説をみると、シェイクスピアは(1)を主筋としながら、筆を進めるうちに(2)に興味が移ったのではないかという推察がなされている。最後の17・第5幕第4場を読んでみると、ヒーロー&クローディオーの結末があっさりしすぎているのに対して、ベアトリス&ベネディックのやりとりは感動的で引き込まれる。前者のほうがいわば悲劇を乗り越え、互いの愛を再び得たにもかかわらず、である。

思うに、クローディオーが単純な没個性な男であるのに対して、ベネディックという人物が、他の作品にみられないほど個性的に描かれているからではなかろうか。