「あらし」シェイクスピア

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シェイクスピアの作品中、『あらし』は気に入っていてよく読む。三一致、閉鎖的小宇宙、プロスペローの超人的、支配的な役割など、他の作品にはみられない特徴がいくつもある。

フォールスタッフなどシェイクスピアの戯曲には数多くの個性的な人物がいるが、中でもキャリバンはとりわけて目立った存在である。 次の科白などは感動的である。

「時には歌声が混じる、それを聴いていると、長いことぐっすり眠った後でも、またぞろ眠くなって来る そうして、夢を見る、雲が二つに割れて、そこから宝物がどっさり落ちて来そうな気になって、そこで目が醒めてしまい、もう一度夢が見たくて泣いた事もあったっけ」福田恒存訳)

この部分を読むと、なぜか20代のころ歌舞伎座で観劇した「俊寛」の姿が浮かぶ。記憶の中でぼろを着た中村勘三郎演ずる俊寛が醜いキャリバンに結びついてしまっているんだな。『あらし』を読んだ時期と観劇が重なっていたからだと思う。