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「村に火をつけ、白痴になれ」栗原康/岩波書店

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伊藤野枝の名は、大杉栄の本を読んでいたため名前だけは記憶していた。月刊誌「世界」の巻末に出ている新刊案内を見て彼女の生涯に興味をもった僕は、本書を手にした。

1年に何冊かは他のことをわすれて一気に読むような本がある。この「村に火をつけ、白痴になれ」はそんな1冊だ。それにしてもすごいタイトルだよなあ…。

大正期、野枝は社会主義運動に入り、大杉と出会い、最後には大杉と6歳の息子ともども官憲によって虐殺される。そんな彼女の生涯は重く暗い印象を与えがちだけれど、本書を読むと悲劇の女性という人物像は野枝には全く当てはまらないように僕には思える。

それは栗原康の軽妙な筆致によるよりも、むしろ野枝のもつ生来の生命力、人間力によるところが大きい。筆者はそんな野枝の実像を余すところがない。

表紙に出ている野枝の写真も魅力的だ。大杉とともに彼女と会ったラッセルは、好ましいと思った日本人の女性は彼女だけだ、という感想を残していたという。ラッセルはたしか結婚と離婚を繰り返していたんだよね…。

それはさておき、オビにはこんな一文が書かれている。

「あなたは一国の為政者でも私よりは弱い」

たとえ言動に共感は得られないとしても、彼女の生涯が、読者がもつ閉塞感を打ち破るようなエネルギーを与えてくれることは疑いない。