谷崎の源氏物語訳業は世界の損失!?

無題

谷崎潤一郎が「源氏物語」の現代語訳を行ったことについて、ドナルド・キーンは次のように書いている。

この訳業は前後3回にわたって繰り返された大事業で、この間、谷崎地自身の創作の時間が奪われたという意味では、世界の損失だったといえるかもしれない。(「日本文学の歴史1」p50)

僕は15年ほど前、谷崎訳の源氏を読もうとページを開いたことがある。しかし、それは「谷崎の書いた源氏物語」で、少しも古典を読んでいる気がせず、数ページでやめてしまった。

かわりに選んだのは日本古典文学全集の源氏物語だった。このシリーズは原文と注釈のほかに現代語訳もついている。訳文は作家の文章のような文学的味付けがなされていないこともあり、古語辞典を傍らに置いて、原文をじっくり味わいながら読み進めることができた。

この読み方はベストだったと思う。外国語ならともかく、源氏は日本語で書かれているのだから、訳文は参考にしながら原文を読むのがよい。その意味からもキーン氏の言うことに賛同したい。