「新松島物語」…。「松島や ああ松島や…」は芭蕉の句ではない

地元・塩釜に育ち、産経新聞の記者として長年取材活動に携わってきた小川澄夫の執筆。「松島の島はいくつ?」「アインシュタイン松島へ」など76編からなる興味深い内容が豊富な歴史資料に基づいて書かれている。写真も多く、郷土資料としても価値がある。本書1冊と地図があれば観光ガイドもできてしまうほどの充実した内容。

本書は以前に家族で松島を旅したときに購入した。観光地にはよくこの手の郷土資料本が売られていることが多いが、実際に見たものを忘れないために必ず買うことにしている。

さて、本書から多くの人が誤解している話を一つ。芭蕉は塩釜から内陸寄りのコースを小舟に乗って松島へ向かった。芭蕉はなぜかこの景勝の地で句作をしなかった。「松島や ああ松島や 松島や」という句を耳にしたことのある方がおられると思う。

実はこれは芭蕉の句ではない。小田原の狂歌師・田原坊の作といわれている。季語もないこのような句を芭蕉が残すはずのないことは当然といえば当然なのだが、あなたはいかがだったろうか。この地で句を残しているのは同行の曽良で「松島や 鶴に身を借れほとどきす」というのがその句である。