『白鯨』…この本を見るたび、竜田揚げが食べたくなる

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作者メルヴィルはアメリカ生まれ。『白鯨』は十九世紀の中ごろに書かれた。まず冒頭に語源部として鯨の語源の話が少しあり、次に文献部としてさまざまな作品から鯨に関しての記述が抜き書きされている。引用している作品も作者も、大半は知らないものばかりである。

本文を一章から読んでいくと、これがアメリカ人によるものなのか、と思えてくる。『怒りのぶどう』のようないかにもアメリカ臭いものがない。特有の乾燥したものが感じられず、ずしりと重い文体が続く。メルヴィル自身ヨーロッパに旅し、西欧文学に親しんだ経験がこの作品に反映していると思われる。

捕鯨船が出航したあとに「弁護」という章があり、捕鯨についての誤解を解いている。いや、むしろ礼讃しているともいえる。かつて鯨採りは多くの国で盛んだった。ところが近年国際捕鯨委員会で反捕鯨国がその大半を占めるようになり、商業捕鯨が禁止されてからは、鯨はウォッチングの対象が主になりつつある。

調査捕鯨によるものだろう、数年前まではたまにスーパーに鯨肉が並ぶことがあったが、最近はそれすらない。もはやくじらベーコンや竜田揚げが食卓に並ぶことはなくなった。