『SとM』…失われた絶対者へのノスタルジーだとさ
タイトルだけを見て興味本位でこの本を開いた人は、その内容に落胆するかもしれない。いわゆる具体的なプレイなどの「実践的」なことが書かれていないからである。本書は文学者による真面目なSM研究なのだ。
SMとのかかわりはヨーロッパ史、キリスト教となどに及んでいて、掘り下げた分析はなかなかおもしろい。とりわけ目を引いた記述は、「Mが失われた絶対者へのノスタルジーだ」という具体例として著者が挙げた、パ・リーグ球団の監督の話。
彼は選手時代、当時の監督から罵倒され続けたうちにM体質に至り、この監督が辞めた後にその役割を引き継いだのが、何とかつて世間をにぎわせたS夫人だというのだ。
まあたしかに、この夫人にはサディスティックなものを感じるけれど…。SMの精神というのはマニアに限られず、普通の人間にも巣食っているのかもしれないな。ついでに告白すると、僕はM。