『彼岸過迄』…生気を消してゆくような芸術という批評も

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正直言って後味のよくない小説である。読み進めるうちに頭が重くなる。巻末の解説に武者小路実篤の「如何に甘くかけていても漱石氏のようなじめじめした、生気を消してゆくような芸術を自分は愛することはできない」という批判が紹介されている。

じっさい須永の内心には付いていけない点が多い。なぜここまで書くことがあろう。そのあとに書かれた作品『行人』『こころ』にも神経衰弱的な要素が多いように感じられる。

彼岸過迄』を書いたころの体調不良が作品に影響していることは間違いない。森本の話や、田口の悪戯などとても面白くて先を期待していたのだが、須永の話から変調をきたしていく。本作と『行人』『こころ』は神経衰弱三部作ともいうべきもので、読むほうにもそれなりの覚悟が必要である。