『ヘンリ・ライクロフトの私記』…カタルシスだなあ

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本書はイギリスの片田舎に移り住んだ男の自伝という形をとる作品。春夏秋冬の四篇からなる。季節の情景を描いた記述の中に、自分の過去話や、文学、思想、信仰、はては料理の話などが盛り込まれている。

解説の言葉によれば、この作品は、季節の移り変わりを繊細に顫動する心を通じてとらえており、また自分というものに対する強靱な誠実さを貫く、という二つの特色をもつ。

私記のようでもあり、文学評論あるいは思い出話でもあるような内容である。「秋」の最初の章で、花の名前について書かれているところが気に入っている。

「私は散歩の途中出会うすべての花を一つ一つ名ざして呼べるようになりたい……花もその個性を認めてもらうと喜ぶように私には感じられるのだ。ひとつびとつの花にどれほど多くの恩恵を私が負うているかを考えると、せめて私にできることは、一つ一つの花に挨拶するということである」

いいですねえ。心が浄化されるよう。